2003/4/24
朱のエチュード

この話題は、nanoさんの日記に触発されたものである。

『シャーロック・ホームズの冒険』のDVDに、出版社は忘れたが全集の広告が入っていた。ふと一瞥して不思議に思ったのは、ワトソンとホームズとが初めて出会う長編『A Study in Scarlet』の書名が、定番訳の『緋色の研究』ではなく『緋色の習作』と題されていたことだ。しかし、このときには深く考えずにチラシを捨ててしまった。

日本のホームズ愛好家のあいだでは、『緋色の習作』なる書名を採用している人もいる。彼らの主張では、ここで「A Study」を「研究」とするのは誤訳であるという。しかし、「習作」がほんとうに正しい訳なのだろうか。

「A Study in Scarlet」は、ホームズのセリフとして文中に登場する(強調は筆者による)。

The ring, man, the ring: that was what he came back for. If we have no other way of catching him, we can always bait our line with the ring. I shall have him, Doctor -- I'll lay you two to one that I have him. I must thank you for it all. I might not have gone but for you, and so have missed the finest study I ever came across: a study in scarlet, eh? Why shouldn't we use a little art jargon. There's the scarlet thread of murder running through the colorless skein of life, and our duty is to unravel it, and isolate it, and expose every inch of it. And now for lunch, and then for Norman Neruda. Her attack and her bowing are splendid. What's that little thing of Chopin's she plays so magnificently: Tra-la-la-lira-lira-lay.

この文面から、たしかに「研究」ではないことがわかる。「a little art jargon」と述べられているからだ。でははたして、このstudyは「習作」なのだろうか。studyは美術用語として「習作」という意味があるが、音楽用語として「課題曲」という意味もある。ピアノなどのエチュード(etude)と言ったほうがわかりやすいかもしれない。私には、後者ではないかと思える。

「習作」よりも「エチュード」だろうと思う根拠――1.ホームズはバイオリンを弾いたりコンサートに出かけたりするなど、音楽への関心のほうが高い。2. 「習作」は自分から描くものであり、「come across」したり「unravel」したりするだろうか。エチュードならわかる。3. A Study in B minorのように、前置詞inのあとに音階をとることがあるが、「習作」のときにinをとるだろうか。(何かのスケッチならofをとる。)4(おまけ).「刑事コロンボ」に「Etude in Black」というものがある。

そんなわけで、「scarlet」が罪悪を連想させることもあわせて、「朱(あか)のエチュード」という訳語を考えてみた。検索エンジンをあたってみると、『緋のエチュード』と訳しておられる方がいて、我が意を得た気がした。それでも、慣れ親しんだ『緋色の研究』で十分だとは思うが。


2003/4/19
減量のためのジョギング

ジョギングは髭剃りに似ている。はじめる前は面倒くさく感じるものの、最中はわりと楽しく、終わったあとはスッキリして気分がよい。去年の暮れから走っていて、そう思った。

ジョギングをはじめたのは、太ったからだ。かつて2001年12月に体重が73.2kgに達し、減量をはじめたことがあった。水泳をメインの運動に据えたが、挫折した。さらに2002年3月に父母双方の実家を訪れた際には死ぬほど料理が出てきたので、1週間足らずで5kg太る。そのまま1年がすぎ、去年の暮れには体重が78.0kgに達した。さすがに歩いていても苦しいので、再び減量に取り組むこととなった次第だ。今回メインに据えた運動はジョギングで、さすがに4カ月つづけると慣れてきた。

唯一の道具ともいえる靴は慎重に選びたい。靴のよしあしで膝への衝撃がずいぶん変わってくる。ちゃんとしたジョギングシューズを買ったほうがよい。何がいいかは人それぞれなので、実際に履いてみるべきだ。私が使っているのはアシックスのゲルフューズ(GEL-FUSE II SW)というもので、幅が4Eになっている。足幅が大きいため普段なら28cmの靴を履くのだが、4Eだと27.5cmでいける。この靴の効果は大きかった。べつの靴で走ったあとでは階段の上り下りすらままならなかったのだが、この靴に替えてからは平気である。

服装は、なるべく汗をかかないものがいいそうだ。よって半袖・短パンがベストなのだが、この点に関して私はほとんど注意を払っていない。はじめたときは真冬で寒かったので、まったくの普段着にコートを着て走っていた。いまでも長袖・長ズボンで走っている。太股が太くて股ズレを起こすから、短パンを履くことはできない。もともと長距離向きの体ではないのだろう。

減量のためのジョギングでは、距離よりも時間のほうが重要だ。ミズノのジョギングページにあるように、少なくとも30分以上走らなければ脂肪は燃焼されない。(下図は、ミズノのページより引用。)したがって長時間走っていても飽きないようなコースが必要になる。幸いにも決定版とも言えるコースを発見したので、ずっとそうしている。1周に35分ほどかかり、家からコースまでの往復時間を含めると90分ほどになる。ふだんは1周、気力・体力に余裕があれば2周する。家を出てすぐに(それも普段着で)走るから、水泳とちがって面倒くささがない。

脂肪と糖質の分解

以上の認識で12月の末から走りはじめ、3カ月が経とうとしていたころ、深刻な問題が生じていた。ぜんぜん体重が減らない――それどころか若干増えていたのだ。4/5、23:20の計量では、78.6kgになっている。減量方法に何か問題があるのではないかと考え、『教養としてのスポーツ・身体運動』を読んだことがあるという妹に尋ねてみた。

私の問題は、食べた直後に走っていたことにあったらしい。食後は血糖値が上がり血液内の糖が豊富にあるので、走っても糖ばかりが消費され、脂肪が減らないのだそうだ。むしろ空腹時に走るべきなのだという。そして、明治乳業の「ヴァーム」という飲料水を飲むよう勧められた。

ヴァームの詳細については、「スズメバチの科学」や齊藤愼一・土田博・向井直樹・阿部岳「PDF昼食後の持久性運動時の血中ケトン体濃度に及ぼすスズメバチ幼虫分泌アミノ酸混合液(Vespa Amino Acid Mixture: VAAM)摂取の影響」(『筑波大学体育科学系紀要』、vol.24)、VAAM-Power.comに詳しい。要するに、通常なら運動後30分で燃えはじめる脂肪を、ヴァームを飲めば運動開始直後から燃やすことができるそうだ。飲んでから30分後に走りはじめるとよいらしい。

この商品の問題点をあげると、第一に味が悪い。「ヴァーム190とヴァームウォーターをあわせて毎日2〜3リットルくらい飲んでいる」との高橋尚子選手の発言には信じられない思いがする。第二に、特許(特許公開平9-249556だと思う)のせいで強気の価格設定がなされている点だ。1缶で250円ほどするので、私は粉を通販で購入している。類似商品として「D.A」があり、こちらも高い。

そんなこんなで、なんとか今年の8月中には75kgを切り、年末には2001年末の73.2kgまで持っていく心づもりでいる。はたして、どこまでつづけられるものだろうか。

2003/4/13
MathWorldとMaxima

インターネットで引ける数学事典としては、MathWorldが便利だ。1万語以上を見出しとして収録していて、解説も詳しい。ハイパーリンクもしっかりと用意され、使い勝手もよい。このようなサイトを見ると、Webにおける彼此の差を確認させされる。日本だと、このようなすばらしいサイトは個人レベルのものに終わってしまう。

MathWorldを提供しているウォルフラム・リサーチ社は、数式処理システム「Mathematica」の開発元として著名だ。むかしこの欄に書いたGraphing Calculatorは初等数学に的を絞って使いやすくした道具だが、Mathematicaはもっと強力な(そのかわり扱いが難しい)ソフトウェアである。かつてMacのStudent版(v3.0)を購入したのだが、速度や安定性にやや難があったのと、OSを入れ替えるたびにパスワードの再発行を受けなくてはならない面倒さに嫌気が差したのと、よく使う環境がWindows 2000に変わってしまったことで、もはやインストールすらしていない。そもそも、私にとっては猫に小判だった。

Mathematicaのクローンっぽい数式処理システム「Maxima」を知ったのは、KNOPPIX日本語版のホームページでの紹介による。KNOPPIXを起動して使ってみて、TeXmacsをフロントエンドにしたときの表示に舌を巻いた。(TeXmacsを起動して、ディスプレイ装置のようなボタンを押し、メニューから「Maxima」を選ぶ。)Computer Modernフォントによって結果が組まれ、美しい。

TeXmacsの画面

参考になるページとして、「数式処理システムMaxima」、「Maximaで遊ぼう」がある。Windows版も含め、本家のページからダウンロードが可能だ。


2003/4/6
ローラーボール(水性ボールペン)を買う

もともと筆記具は好きだったが、去年あたりから凝り出すようになった。凝るといっても、そこそこの値段のペンを買って楽しんでいるていどで、ちまたの収集家には遠く及ばない。鑑賞する趣味はないので、ひたすら使っている。

上岡龍太郎が『パペポTV』で言っていたことに、ライターの話があった。むかしはダンヒルとかカルティエといった有名ブランドのライターを男はこぞって持ちたがっていたのに、いつのまにか百円ライターが市場を席巻し、貫禄ある男性でも平気で百円ライターを使うようになった、と。筆記具もこれに似たところがあって、わりと書き味のよいものが数百円で手に入るから、よほど凝らないかぎり数千円のものに手を出す動機はない。

これまで自宅で筆記するときにも多色ボールペンを主に使ってきたが、よりよい書き味を求めていくと、やがては1色専用ものに落ちつく。デザインに引かれて購入したラミーアルスター・グラファイトという万年筆を使っているのだが、この万年筆の書き味は万年筆としては妙な具合で、それほど好みではない。サラサ3で興味のわいたローラーボールを試してみたくなった。なお、水性ボールペンのことを特にローラーボールというそうだ。

私はラミーのデザインが好きで、立川の伊勢丹でまず目に入ったのは、スウィフトという水性ボールペンだった。すっきりとした見た目で、書き味もなめらかだ。軸の太さも私に合っている。ただし、若干値が張るのと、重心がやや高いのが気になる。同じ替芯を使ったティポALの評価がよい(信頼文具舗I love LAMY!!!ステーショナリープログラム)ので、注文してみた。下の写真の奥のほうがそれだ。

Tipo ALとO'nettsの写真

ティポALはスウィフトと同じ替芯を使っていながら、値段が半分(3000円)になった廉価版である。握ってみた感触は、だいぶ軽い。軸の太さはまずまず。ペン先が紙についたときのぐらつきは少しある。所詮は廉価版なのだろうか……。スウィフトも重心がもう少し下にあればよいのだが、ひょっとするとプラチナコーティングのものは重量バランスが変えてあるのだろうか。もっとも、そこまで出すならラミー2000の万年筆を買ったほうがよさそうである。

また、米国伊東屋のO'netts SH-830という水性ボールペン(上の写真の手前側)を銀座・伊東屋の中2階で見つけた。見た目はアウロラを彷彿とさせ、キャップがなく軸の根元をまわしてペンを出し入れする。ラミーのティポを思い出させる替芯には、Made in Germanyという刻印がある。替芯はラミーのOEMなのだろうか。ペンの機構はそれなりでペン先はぐらつくが、替芯が安い(350円)のは嬉しい。1本買っておく。帰りに寄った新宿・小田急の伊東屋では見あたらなかったので、銀座でしか買えないのかもしれない。このほか、店頭でアウロラやファーバーカステルのものも試してみたが、それほど強い印象を覚えなかった。

2003/4/2
水性3色ボールペンの評価

時間つぶしに寄った渋谷の東急ハンズで、新しい3色ボールペンを見つける。ゼブラ製で名前を「サラサ3」といい、ジェルインク(ゲルインク)を採用している。思えば、キャップ式でない水性ボールペンをはじめて見た。ものは試しと2本ばかり買ってみる。

私自身はゲルインクのボールペンを使ってこなかった。ぺんてるからハイブリッドとかいうペンが出たときに購入したものの、途中でインクが出なくなる経験を何度か味わってからは手を出さなくなった。周囲を見渡すとゲルインクを使っている人は少なくないから、いまは改良が進んでいるのだろう。

さて、肝心のサラサ3の書き味は、ペンの持ち方に大きく依存する。知っている人は知っているとおり、万年筆ではペンを寝かせ気味に、ボールペンではペンを立て気味にして持つ。サラサ3は、一般的な油性ボールペンよりも角度に関して不寛容だ。わりと立てて持たないと、ローラーが引っかかる。私は万年筆と同じ感覚で握るから、ちょっとつらい。

安定性はそれほどよくない。ボールを紙に当てたとき、ペン先がぐらつくのがわかる。軸先の口径が大きすぎるのではないか。色はゲルインクらしく、黒は黒々とし、赤は生き生きとしている。赤に関しては、油性ボールペンよりもずっとよい。青はブルーブラックに近く、これは油性ボールペンのほうがきれいだ。

総合的に見れば、油性ボールペンに軍配を挙げる。安物の多色ボールペンとして私がいちばん気に入っているのは、三菱鉛筆のTa-shock 4というもの。それでも、これから改良が進んで使いやすい水性多色ボールペンが出てくるかもしれない。